うつ病治療のポイント(休養中の過ごし方、治療のコツなど)

うつ/双極性感情障害

うつ病治療のコツ、回復するコツを整理

これまでに読んだ書籍で良いなと思った内容や、あるいは自身の臨床経験から感じたことなどをまとめてみます。医者にとってのポイントだけでなく、患者にとってのポイントも併せて整理していきます。

うつ病の初診時

待合での様子、入室時の様子

精神科医としてのキャリアをスタートさせた頃、多くの先生方はこう教えられたのではないでしょうか?「待合で待っているときから、あるいは入室したときから診察は始まっている」と。これは当たり前のようですが、本当に大切だなと日々感じます。例えば、待合で待っている時、同伴している家族や恋人、両親などとの関係性はどうでしょう?無理やり家族に連れられたケースもあるでしょうし、本人が受診を強く希望した一方で、家族はそれほど心配していないというケースもあるでしょう。待合での様子を見るだけでも、なんとかくそういう背景が見えてくることもあります。明らかに両親との関係が悪そうな様子であれば、家庭生活がストレスでうつ病を発症した可能性もあるし、直接因子ではなくとも、何らかの関係がある可能性はあります。そういう意味でも、診察場面での患者の言葉だけでなく、待合や入室時の患者の態度、表情、振る舞いなどを良く観察することは重要なことと言えます。

「今日来てみてどうだったか」

初診の診察終了時に、「今日来てみてどうだったか」を尋ねてみます。これはとある本で目にして、自分も真似してみようと思ったテクニック。何気ない質問のようですが、とても意味のある言葉のように思います。

この質問の意図としては2つ。
受診が不安軽減に繋がったことを実感してもらう
診察を少し振り返り、冷静になってもらう

初診ではこれまでの生活歴や病歴、家族背景などを洗いざらい聴取されるのです。はじめて精神科を受診する者にとって、自身のことをあれこれと話すことはストレスと感じることもあるでしょう。感情の動揺も多少はあるかもしれません。そういう動揺を抱えたまま帰らぬよう、最後に蓋を閉める作業を行います。患者さんに安心して帰ってもらえるよう、こういう質問を行うことが一つのコツのようです。これは私も実際に試したことはありますが、確かに患者自身が不安の軽減を実感でき、安心感に繋がることもあったように感じます。

お土産を持って帰ってもらう

これも先ほどの言葉と同様、とある本で目にした言葉です。治療方針の提案や薬剤、などとという意味だけでなく、良い主治医と出逢えた、病院の職員の対応が素晴らしく癒された、など些細なものでも良いので、何かしら些細なお土産を家に持って帰ってもらうということを心がけると良いでしょう。今日、この病院に来てよかったと思えるように、少しでも何か意識してみようと思うだけでも、患者さんには何かが届くはずです。この些細なお土産が、不安の軽減や今後の治療のモチベーションにもつながるといいですね。

うつ病の急性期治療

・基本的には休息、簡潔な心理教育は必須
・病状が中等度〜重度であれば薬物療法を検討
・休息のコツ、病状経過の見通しなどについては説明しておくことが望ましい
・ある程度の見通しが持てると患者の不安は軽減しやすい
・療養期間はまずは2-3ヶ月と伝える
・その後のことは経過をみながら都度検討する旨も共有
病状の回復の過程では必ず波があること、
 そしてその波に一喜一憂しすぎないことを伝える
・自分も家族も1日1日の変化に一喜一憂しすぎていては心が持たない
・2週間や1ヶ月といった長いスパンで自分の回復を振り返るほうが良い

うつ病の回復過程において

うつ病の治療において、私たちは自宅療養を勧めることが度々あります。しかし、療養するといっても具体的に何をすればいいのかわからない方も多いのではないでしょうか。療養時の過ごし方、休息のコツ、うつ病の寛解に関する内容などを具体的にみていきましょう。

療養時の過ごし方、休息のコツ

・仕事など明確なストレス因があってうつ病を発症した人は、
 回復のためにまず環境調整を行う。
 たとえば仕事に関するものは目に入らないところにしまうなど。
 電話やメールもシャットアウトする。
 必要な事務的な連絡は、
 2週間に1回程度にしたいことを事前に上司に伝える
・本当に苦しい時期はとにかく「ダラダラ」!
 積極的に何もしない、努めて何もしない、
 何もしないことが正義、何もしないことが仕事である
・仕事に関することを考えないようにするためにも、
 上記の環境調整は重要である。
・復職のことは考えない
義務感や責任感に駆られて無理をしないこと
・「これをやりたいな」という自然な感情に身を任せ行動する程度の方が良い
・必ず回復するという希望を持たせるメッセージを伝える(※)
・悪いところ、できていないところに注目しすぎないように
 悪い面ばかり見ていると、ネガティブな感情や思考が強まりやすい
・逆に良かったこと、できていることに注目すると良い
・「こんなにも辛い中で、〇〇はできているのですね。よく頑張られていますね」などの声かけ
・「案外自分はいろいろやれているな」と気がつかせることは大切
・ネガティブな言葉をポジティブな言葉に置き換える練習もok
 「妻に注意されたけれど、一人で料理ができた」など

うつ病の寛解率

うつ病に対する抗うつ薬治療に関する有名な研究(STAR*D研究)によると、初回の抗うつ薬で寛解する人の割合は1/3程度と言われています。その後に4剤の抗うつ薬を試しても、最終的な寛解率は2/3にとどまったとのデータがあります。なので、正確な情報を伝えるならば、「2/3の確率で回復します」が正しいのですが、うつ病患者にそう告知することが果たして有益なのか、という疑問が生じます。気分も落ち込み、不安で絶望的な気持ちを抱えているうつ病患者に対しては「治る病気だ」「治療すれば必ず良くなる」というメッセージを伝えるほうが有益ではないかと個人的には思う次第です。

このあたりは主治医のスタンスによって変わってくるところだと思います。防衛的な先生、過剰に訴訟などを恐るような先生の場合は、「治る病気」だと伝えてしまうことを忌避するかもしれません。「治ると言ったのに治らないじゃないか」などと怒鳴り込まれたらどうしよう、などと考えてしまう人もいる…かも?とはいえ、私は治療的に必要であれば、きっと治るというメッセージを伝えていいんじゃないかと考えます。

うつ病での不安への対処

うつ病に限らず精神疾患の多くは「不安」との戦いです。不安とどううまく付き合うかが生活の質の向上にも繋がってきます。不安との付き合い方のポイントはありますが、この記事ですべて語るのことは難しいため、詳細は他の記事でまとめていけたらと思います。少なくとも、不安なことをぐるぐると頭で考えても、ほとんどの場合は答えが出ません。そして、考えれば考えるほどに不安が強まってしまいます。そのため、不安な思考を中断する方法や、他の事柄に注意を逸らす方法、身体の緊張をほぐすためのリラクゼージョン法など、様々な方法が用いられます。もちろん、不安が顕著な場合は薬物療法が有効となることもあります。基本的に抗うつ薬は不安の軽減にも効果があるため、抗うつ薬の力を借りることも時には必要になります。

行動活性化

これは、
やる気が出てから行動する(inside-out)
ではなく、
行動してやる気を呼び起こす(outside-in)
という考え方になります。

うつ病では、「何か好きなこと・楽しいことをしてポジティブな感情を感じる」という機会が圧倒的に減少します。そして、ネガティブな状況に直面し、ネガティブな感情や思考が生まれるという負のループに陥るのです。そのため、意識的にポジティブな感情が得られるような場面を作ることが必要になってきます。たとえば自分の趣味、好きなこと、テンションがあがるようなことなどに取り組むと良いでしょう。もともとライブで激しく踊り回ることが好きな人は、家で音楽をかけて踊るのもいいでしょう。釣りが好きなのであれば、とりあえず海に出かけるというのも良いでしょう。ただ、これはうつ病の急性期真っ只中ではなかなか難しいため、急性期を少し過ぎ、身体的にも精神的にも少し余裕が出てきてから取り組む方がうまく進むでしょう。

行動活性化がうまくいかないとき・やりたいことがない、お金がかかるからできない、
 などの理由で拒む者もいるが、その際には改めて治療の目的を共有する。
・「こんなことやって意味があるのか」と疑問に感じる人も少なくない
・「わからないからこそ、実験として取り組んでみよう」というスタンスで
・実際に行動を起こし、そしてその際にどんな感情が湧いてきたか、
 どんな思考が出てきたか、という変化に気がつけるよう促していく
精神科医Pちゃんまんってどんな人?

美人すぎる精神科医Pちゃんまん。ハイパーな精神科救急病院での後期研修を経て、精神科指定医および精神科専門医を取得。日々の臨床業務の中で学んだこと、気になる論文、おすすめ参考書籍などを紹介していきます。

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