クロザピン誘発性の無顆粒球症のリスク因子
「「クロザピン導入前の白血球数が低かった場合、無顆粒球症のリスクを高めるのか?」」という臨床疑問から、いくつかの文献を確認してみました。もし、導入前の時点での白血球低値が無顆粒球症のリスクとなる場合は導入を躊躇する根拠となりまし、また、導入する際にある程度の心構えもできるでしょう。それでは、この臨床疑問を解決するために文献をみていくこととしましょう*
クロザピンと白血球数に関する論文4本
クロザピン投与中止のリスク因子
・こちらは国内の報告
・対象患者は8,263名
・結果:
▶︎オランザピン不耐性(HR=1.31、p=0.018)
▶︎ロザピンの治療歴(HR=1.30、p=0.001)
▶︎血球数<6,000/mm3(HR=1.24、p<0.001)
また、クロザピン導入時の年齢が高いほど継続率が低い傾向にあり、若年期導入はより安全と言えるとの結果に。
・結論:
→ 導入前の白血球数<6000/mm3であれば無顆粒球症のリスクを高める
良性好中球減少症を有する患者へのクロザピン投与の安全性
・2001年から2014年の入院患者のうち、クロザピン投与前に良性好中球減少症を有する26名を対象に
・対象の平均年齢は34歳
・対象の大多数はアフリカ系アメリカ人
・結果:好中球数の平均最低値はクロザピン投与開始前と比較し有意差はなし
・クロザピン投与前の好中球減少症は重篤な好中球減少症を予測し得ない
・結論:
→ 導入前の好中球減少は無顆粒球症のリスクとならない
アメリカにおけるクロザピン誘発性無顆粒球症の発生率とリスク因子
これは1993年の古い文献ではありますが、参考までに紹介してみます。
・無顆粒球症の発生率と年齢や性別などの潜在的危険因子の影響を検討
・結果:
・無顆粒球症は73例に発現(2例が感染性合併症により死亡)
・無顆粒球症のうち61例は投与開始後3ヵ月以内に発現
・無顆粒球症の発症リスクは年齢とともに増加し、女性でより高かった
・結論
→ 導入前の好中球減少はリスクとならない
クロザピン導入前の好酸球数はクロザピンによる好中球減少を予測するか?
こちらも1996年の古い文献ではありますが、参考に結果のみを示します。
・結論
→ クロザピン投与群において、好酸球増加が認められる場合、好中球減少(好中球数<2000/mm3が有意に多くみられた。
まとめ
・海外の報告では、クロザピン導入前の白血球減少は無顆粒球症のリスクにならないとの結果
・2021年の国内の報告では、白血球数<6000/mm3であれば無顆粒球症のリスクを高めるとの結果
海外の報告では、クロザピン導入前の白血球減少は無顆粒球症のリスクにならないとの結果でしたが、これをこの結果のまま解釈すれば良いのかは少し疑問が残ります。というのも、無顆粒球症については人種差があると報告されているため(黒人5.3%、白人2.4%、日本人1.1%など)、日本人の治療を行ううえで参考にすべきは国内データかなと思ったりもします。国内の報告では白血球数6000未満が無顆粒球症の結果を高めるとの結果になっており、個人的には導入前の白血球数は気にしておいた方がいいのかなと思います。クロザピンの導入を考えている先生方、白血球数<6000/mm3という数字はひとつの指標としてみてはいかがでしょうか。
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