【医者ガチャ】良い精神科医の選び方、ヤバい精神科医の見極め方*

精神科医療

良い精神科医と、悪い精神科医

ひとことで精神科医と言っても、様々なタイプの医者がいます。悲しいことに、中にはとても精神科医とは呼べないほどに質の低い医者もいます。ただ、精神科に限って言えば、医者と患者という治療関係において必ず相性というものが生じるため、100人の患者のうち100人皆と相性が合う医者はほとんどいないでしょう。しかし、100人中の80-90人程度を満足させられるような医者はそれなりにいるのではないかと思います。一方、悲しいことに100人中の10-20人程度しか満足させられない医者も存在するのが悲しい現実なのです。そのような医者の違いは果たしてどんなところにあるのでしょうか。私の臨床経験を振り返りながら、良い医者の見極め方を紹介していきたいと思います。医者ガチャでハズレを引かないように、そしてたとえハズレを引いたとしてもすぐに方向転換ができるように、参考にしていただければ幸いです*

補足これは精神科に限らずどの科でも当てはまるとは思いますが、たとえ知識があっても、優秀であっても、コミュニケーションに難があって患者に失礼な言葉を浴びせたり、患者を不快にさせるような態度をとったり、そういうことを日常的にしてしまう医者がいます。「病気は治ったけれど、もやもやした気持ちが残った」となれば治療者としては優秀とは呼べないかもしれません。このような医者にならないために、私も含め、医療者は日々鍛錬が必要なのでしょう。

良い精神科医の条件や特徴

適切な診断・治療ができる

これは必須条件でしょう。やはり精神科の治療を進めていく上で、患者の生活背景や生育歴、既往歴、病歴などを聴取し、適切な見立て・診断を行うことが何より大切になります。見立て・診断を間違えば治療もうまく進みません。診断スキルは良い精神科医になるうえで必須条件だと思います。ただ、診断ができても治療ができないと患者は回復していきません。精神療法や薬物療法、支援体制の構築、必要時は他院・他科への紹介など、患者の見立て・診断に沿った適切な治療を行うことが大事です。

では、これをどうやって見極めればいいのでしょうか。「こんなところに注意してみるといいよ」という個人的なポイントを紹介してみます。

適切な情報収集

まずは、どれだけ情報を収集してくれるか、という点で精神科医を見てみると良いでしょう。例えば、初診時に「現在の症状」のことだけ聞かれ、「あなたはうつ病ですね」などと診断されると不信感を抱きませんか?このように少ない情報だけで診断をしてしまうと誤診の可能性が高まります。やはり診断するうえでは、過去のエピソードや生活背景、現在抱えているストレスなど、様々な情報が必要になると思います。「症状」だけにフォーカスを当て短い時間で診察をする医者の場合は注意が必要といえるのではないでしょうか。

薬剤選択

治療に関してわかりやすいのは薬剤の選択でしょう。たとえば、時代遅れの古い薬をメインに使う医者や、薬を何種類も同時に処方し、処方した薬の効果を評価することなくどんどん薬を増やすような医者は危険です。ガイドラインに沿ってスマートな処方をできる医者が望ましいのではないでしょうか。例えば、初診で統合失調症を疑われた患者に、いきなりハロペリドール(定型抗精神病薬の一種で、いわば古い薬)を処方するような先生はまだ少なくありません。現在のガイドラインでは非定型抗精神病薬(リスペリドンやブロナンセリン、アリピプラゾール、ブレクスピプラゾール、オランザピン、アセナピンなど)を第一に選択することが推奨されていますが、それを無視してあえて定型抗精神病薬のハロペリドールから使用するような精神科医の場合、知識がアップデートされていない、あるいはこだわりが強いために適切な薬剤選択ができていない可能性があります。このように、医者の薬剤選択が適切かどうかは大事な指標となるでしょう。

※とはいえ、医療者でない限り薬剤選択が正しいかどうかなんてわからないと感じる方もいるでしょう。不安な場合は、自分の疾患のガイドラインをインターネットで調べてみるのもありです。もちろん、様々な事情でガイドライン上の第一選択薬を選択しない場合もあるため、気になる場合は主治医に質問をしてみることも時には必要となります。

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薬剤以外の治療

これは精神科医療に携わる者であれば非常に共感をしてもらえると思いますが、薬以外の治療をどれだけうまくできるか、というところも重要なポイントとなります。精神科医療において、薬で解決できる問題は一部であり、特にストレス関連疾患や依存症、発達障害、知的障害などの領域では薬以外での治療も非常に重要となってきます。しかし、十分に経験を積んでいない医師や、きちんとした教育を受けていない医師の場合は、何をすればいいかわからず、「とりあえずこの薬を飲んで経過をみましょう」という対応になってしまう傾向にあります。「薬以外に治療の引き出しがどれだけあるか」、という点は、良い精神科医選びの一つの指標になるのではないでしょうか。

「自分は依存症の専門じゃないので」「自分は発達障害の専門じゃないので」などと十分な治療をせずに逃げてしまう精神科医も一定数います。たとえ自身の専門でなかったとして、精神科医である以上は幅広い分野の対応をせざるを得ないですし、専門でないなりにできる範囲で様々なアプローチをしなくてはなりません。例えば依存症患者がお酒を飲まないためにはどんな工夫をすればいいのか一緒に考えてあげることはできるでしょうし、発達障害の子が不適応を繰り返さないように環境調整や支援体制の構築をすることもできます。感情が不安定となりやすい患者さんに対しては、不調時の注意サインや対処法を整理してあげることもできます。決して専門でなくともできることは少なくないですし、一緒に何かを悩み、考えてあげる姿勢こそが患者の救いにもなるのではないかと個人的には思います。「専門でないからできない」ために専門病院に紹介することも時には必要となりますが、自身が対応している限りは匙を投げずに正面から向き合って治療をしたいものですね。

患者の病気を治したいという思い

これはどの科においても同じでしょう。知識が豊富で技術が優れていても、患者の回復にそれほど興味のない冷酷な医者であれば患者も救われません。「確かに病気は治ったけれど、医者の態度にはムカついた」となると、病気は良くなったとしても違うストレスが増えてしまうことになります。医者に患者を治したいという思いが強ければ、自然と態度や表情、振る舞い、言動などにポジティブなものが現れるでしょうし、それはどことなく患者にも伝わると思います。

傾聴、共感、受容がうまい

精神科医の基本であるのが傾聴や共感、受容でしょう。患者の様々な思い・苦悩に耳を傾け、患者の立場に立ってその苦しみを同じように体験する、そしてその苦しみに共感し、患者の思いを受け止める作業が必要となります。これは簡単なようでなかなか難しいのです。時には冗長で迂遠な話を、時には怒りにまかせて飛んでくるような話を、時には悲嘆にまみれた絶望的な話を、受け止めなければならなりません。精神科医もひとりの人間であり、患者の話に苛立ったり、凹んだり、退屈を感じたり、そんな感情が湧いてくることもあります。しかし、熟練した精神科医であるほど自分の感情をうまくコントロールし、そして患者の声を聞き、患者の世界に浸り、患者の心に共感する、ということができるものなんだと思います(若輩者の私はまだまだこのスキルの向上が必要であると日々感じています…)

治療の軸ぶれない

これどういうことかというと、相手の振る舞いや言動によって治療方針を変えないということです。もちろん経過とともに診断が変わり、治療方針が変わり、選ぶ薬も変わってくる、ということは多々あります。精神疾患においては経過をみていく中でしかわからないものもあるし、これは決して悪いことではないのです。ただ、良くないのは、患者に振り回されるような形で治療方針を変えてしまう、ということでしょう。例えば、「眠れないから睡眠薬をもっと出してくれ」と患者が何度も何度も強く言うものだから、つい薬を出してしまう。あるいは規制として30日分までしか出せない薬を「出さないと患者が怒鳴るから」との理由で30日分以上出してしまうようなことがあります。このように、相手に振り回される形で治療を行っていると、良い治療は提供できません。振り回されると治療に失敗するケースの代表として、境界性パーソナリティ障害があります。見捨てられるのが不安で、なりふり構わず主治医の気を引こうと自殺未遂や自傷を繰り返してしまうような患者の場合、自傷する度に「心配だから」と外来にきてもらったり、「落ち着いてもらわないと困るから」と優しく声をかけたり、そういった関わりが逆効果となることがあるのです。相手がどんな振る舞いをしようとも、治療方針として「この患者にはこういう対応を」という軸をしっかりと持ち、相手のセンセーショナルな行動にも動揺することなく対応できなければなりません。

治療の軸がぶれない、という言葉の中には、患者との距離感の取り方がうまい、という意味合いもあるかもしれません。自分に対して好意的な態度を持つ患者、逆に敵意を向けてくるような患者、様々なタイプの患者にも動揺せず、一定の距離感で対応できる先生ほど治療がうまく進みやすいと思います。

資格(精神保険指定医、精神科専門医)

上記のように色々と述べたものの、初診の段階でその病院の精神科医のスキルを確認するのは難しいです。いくらホームページを見ても、その精神科医に治療への情熱があるのかどうかはわからないし、診断や治療のスキルがどうかなんて確認のしようがないのです。じゃあ受診する前には何を参考にすればいいのかというと、資格です。精神科医が取得する資格として、代表的なものは2つ。精神保険指定医と精神科専門医です。その他にも資格はありますが、多くの精神科医が取得するのがこの2つになります。精神科医になり、少なくとも3年以上の鍛錬を積んだ後、それぞれの試験を突破すると取得ができるのです。逆に言うと、この2つの資格を取得していない精神科医の場合、まだ若手で経験が3年未満、あるいは経験はあるけれども何らかの事情で資格を取得していないかのどちらかとなります。若手の場合は仕方ないですが、経験があるのに資格を取得していない場合は、少し疑う必要があるのではないでしょうか。レポートや試験勉強をするのが面倒だ、というやる気のない医者である可能性は否定できないからです。また、レポートを書いたけれど、勉強をしたけれど試験を突破できなかった、という実力不足の者もいるかもしれません。いわゆる医者ガチャでハズレを引かないために、資格の有無を確認して損はないでしょう。

ただし、優秀な精神科医でも、中には「専門医をとったって給料は変わらないし」「専門医なんてなくても仕事はできる」などとの理由からあえて資格を取得しない人もいます。私が出会ってきた精神科医の中でも、専門医や指定医を取得していないが非常に優秀な先生はいました。資格だけで医者のスキル全てを評価できる訳ではないことには注意が必要です。

その他(研究、学位、経歴)

その他には研究内容や論文、学位、経歴なども参考にはなるでしょう。ここにあげたもの以外にも、良い精神科医としての資質は様々あると思いますが、いち精神科医の意見として参考にしていただければと思います。

まとめ

以上、良い精神科医の選び方、ヤバイ精神科医の見極め方などを紹介してみました。
これまでの内容を簡単にまとめると、

良い精神科医の条件・適切な診断、治療ができる
・病気を治したいという情熱がある
・傾聴、共感、受容がうまい
・治療の軸がぶれない
・指定医、専門医を取得している
・優れた研究成績、論文、経歴

*偉そうに書き並べたものの、私もまだまだ未熟者です。このような良い精神科医になるための資質を少しずつ身につけたいものですね。

精神科医Pちゃんまんってどんな人?

美人すぎる精神科医Pちゃんまん。ハイパーな精神科救急病院での後期研修を経て、精神科指定医および精神科専門医を取得。日々の臨床業務の中で学んだこと、気になる論文、おすすめ参考書籍などを紹介していきます。

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