【認知症/BPSD】徘徊,暴力,帰宅願望などに対する様々な工夫

精神科医療

認知症のBPSDにどう対応するか?

BPSD- 徘徊

安全に徘徊できる工夫を

家のドアを開けられないようにするなど、物理的な拘束を行わない限り自宅環境で完全に徘徊を防ぐのは難しいでしょう。そのため、例え徘徊をしたとしても安全に自宅に戻れるような工夫を行う必要があります。例えば、以下のような工夫をしておけば、周囲の人の協力のもとという前提にはなってしまいますが、自宅に戻ってくることができるでしょう。

ポイント服に名前を書いておく
連絡先や住所を書いたカードをポケットに入れておく
GPS機能のついた携帯電話を持たせておく
近所の交番や近隣住民に事前に顔を把握してもらう

ただし、交通量の多い道路や踏切、川などが近くにある場合はこれらだけでは危険を回避することができず注意が必要にはなります。

BPSD- 暴言/暴力

認知症の方の暴言暴力には、ほとんどの場合は何らかの理由があり、何かに対していらだっていることが多い。例えばごはんを食べたのに食べたことを覚えておらず「さっきあんなに食べたでしょう」と言われたことで腹を立てるということがある。本人にとっては「食べていない」のだから、「食べただろう」と言われて腹を立てるのは当然と言えば当然である。暴言暴力の背景因子として、大きく3つに分けて考えると良い。

環境因子による暴言暴力

慣れない環境への対処

たとえば病院入院後や施設入所後など、大きく環境が変化した場合、その環境自体が本人にとっては慣れない場所ということになります。慣れない環境で不安を感じることもあるでしょうし、家族以外の良くわからない人間がたくさんいる環境では落ち着こうにも落ち着けないはずです。このように大きく環境が変化した場合には、本人の大事にしている家族写真や時計、置物、衣服、布団、手紙などを居室に置いてあげると良いでしょう。慣れ親しんだものが近くにあるだけでも不安の軽減に繋がります。それだけでなく、本人が安心できるように病院・施設職員が受容的に温かく接することが望ましいでしょう。

退屈への対処

また、忘れてはならないのが「生活環境が充実しているか」という点になります。病院や施設はこれまで過ごしてきた自宅と比べると「退屈」と感じる人が多いはずです。退屈な環境では本人も何をしていいかわからず、余計に不安になったり、家に帰りたいという帰宅願望に繋がることもあります。そのため、暴言や暴力の目立つ認知症のケースでは、生活が充実しているか、退屈にしていないか、本人にとって楽しめる活動は何か、などをスタッフ皆で協議を重ねる必要があります。暴言や暴力があるからと何もさせず縛りつけるような関わりは、かえって本人の苦しみを強めることに繋がるため注意したいですね。

身体的因子による暴言暴力

便秘や疼痛、痒みなどへの対処

認知症に限らず、高齢になると身体的なトラブルが増えてくるのはやむを得ないでしょう。例えば便秘や腰痛、肩こり、頭痛、歩行時の息切れ、全身の痒みなどです。このような身体的なストレスが増えるほど、いらいらや不安などに繋がりやすいと考えられます。このような身体的ストレスに周囲が早く気づき、対処をしてあげる必要があるのです。認知症の方で暴言や暴力が目立つ場合、このような身体的ストレスが生じていないかどうかは評価を行うと良いでしょう。

薬の副作用

忘れてはならないのが薬の副作用ですね。高齢になると薬を飲んでいる方の割合も高くなります。特に認知症患者では暴言暴力、易怒性や攻撃性に対して、抗認知症や抗精神病薬、気分安定薬などが複数使用されていることもあるでしょう。これらによる眠気やふらつき、パーキンソニニズム、アカシジアなどが生じている可能性もあり、副作用に伴うストレスがないかどうかの評価は必要です。入院環境であればすぐに対処できることも多いですが、これらを家族や施設職員だけで判断するのは難しいため、気になる際には病院に早めに相談することが望ましいです。

身体機能の低下

加齢により筋力低下や関節の拘縮、平衡感覚の低下など様々な身体的な衰えが生じてきます。その結果、思うように動けずストレスが溜まりいらだちに繋がることがあります。尿意はあるがスムーズに歩けずトイレを失敗してしまう、TVを見たくても身体が動かずベッドで寝たきりでいる、など様々な生活場面で制限が生じると、人生の楽しみが減り、そして失敗体験ばかりが積み重なってしまい自信の喪失にも繋がるのです。周囲はこのような変化に対して叱責せず、身体的変化への不安を受け止めながら支持的に関わるのが良いでしょう。

精神的因子による暴言暴力

精神科医としては特にこの精神面への対処を要求されることが多いです。例えばBPSDとして幻覚妄想や幻覚妄想に伴う激しい易怒性や攻撃性、暴言暴力、興奮などが目立つケースの場合、家族や施設職員が対応しきれず精神科病院に相談がくることとなります。このような場合は最低限の薬物療法は必要になる。対応として、上記に述べたような環境因子、身体的因子などにうまく対処を行いつつ、並行して薬物療法を行っていきます。基本的には抗認知症薬や抗精神病薬、気分安定薬、睡眠薬などを中心として治療を行いますが、あくまで必要最小限にとどめ、副作用が強く出過ぎないように配慮したいですね。

まとめ

認知症のBPSDは、症状が重度となればなるほど周囲も困惑し、時には誤った対応をしてしまいやすい傾向にあります。そのためにもBPSDに対する知識を整理することが必要であり、そして、きちんとした知識を持つことは支援者の心理的な余裕に繋がり、結果として適切な対応に繋がりやすいのではないでしょうか。

精神科医Pちゃんまんってどんな人?

美人すぎる精神科医Pちゃんまん。ハイパーな精神科救急病院での後期研修を経て、精神科指定医および精神科専門医を取得。日々の臨床業務の中で学んだこと、気になる論文、おすすめ参考書籍などを紹介していきます。

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