【認知機能検査】HDS-R、MMSEの違いや特徴、使い分けについて

精神科医療

HDS-RとMMSEって何が違うの?

HDS-RとMMSEともに認知機能を簡易的に評価するスケールではありますが、内容が若干異なります。ただ、これらの検査にそれぞれどのような特徴があるのか、また、どう使い分けるのか、評価する際に何に注意すれば良いのか、など具体的なことまで理解されている方は多くないのではないでしょうか。精神科医であっても、認知症の専門医でなければなんとなくしか把握していない方も少なくはないと思います。認知症の専門医でなくとも、認知症患者を診察する機会がある医者であれば、最低限の内容は理解しておきたいですね。それぞれの検査の特徴をしっかりと理解しておけば、検査で同じ点数であったとしても、認知症の鑑別に役立つことはありますし、その患者の認知機能のどのような部分が特に障害されているか、といったことを解釈することができます。では、それぞれどのような特徴があるのかを見ていきましょう。

HDS-R(長谷川式認知症スケール)の特徴

HDS-Rはおおむね10-15分もあれば実施できる検査であり、設問としては以下の通りになります。

HDS-R①年齢(1)
②時間の見当識(4)
③場所の見当識(2)
④即時記憶(3)
⑤計算(2)
⑥数字逆唱(2)
⑦遅延再生(6)
⑧物品の視覚記銘(5)
⑨語想起(5)
▶︎計30点 20/21がカットオフ

このうち、配点は「遅延再生」が6点、「物品記銘」が5点、「語想起」が5点、時間の見当識が4点と配点が高くなっています。このことから言えることがあるのですが、詳しく説明していきましょう。

何を評価しているか?■遅延再生:近時記憶
■計算:注意機能、遂行機能
■物品記銘:視覚性の即時記憶
■語想起:語の流暢性

日時の見当識、遅延再生、物品記銘はいずれも海馬の機能と関連しており、アルツハイマー型認知症で初期より失点しやすい項目と言えます。遅延再生について、記憶の保持は側頭葉、ヒントでの回答は前頭葉の取り出し機能と関連している点に注意が必要です。語想起に関しては前頭葉機能を反映する項目ですが、こちらもアルツハイマー型認知症で失点しやすい項目になります。アルツハイマー型認知症では、野菜の名前を4-5個脈絡なく列挙したのちに答えに詰まってしまうというパターンが多いようです。ちなみに、見当識は海馬の機能と関連しており、時→場所→人の順に障害されていくことが多いと言われています。

記憶の種類即時記憶(≒作業記憶):1分程度
近時記憶:数分〜数日
遠隔記憶:経験や生活史に関わる記憶
アルツハイマーでの即時記憶アルツハイマー型認知症では初期の段階では即時記憶は障害されにくいですが、皮質下認知症の場合は思考緩慢や集中力の問題から即時記憶の課題で失点することが少なくないようです。

HDS-Rでは、MMSEと比べて記憶に関する課題が多いのが特徴で、そういう意味でもアルツハイマー型認知症では初期の段階から失点しやすい項目が多く、アルツハイマー型認知症の検出力が高いと言えるでしょう。

MMSEの特徴

MMSEもおおむね10-15分もあれば実施できる検査であり、設問としては以下の通りになります。

MMSE①時間の見当識(5)
②場所の見当識(5)
③即時記憶(3)
④計算あるいは逆唱(5)
⑤遅延再生(3)
⑥物品呼称(2)
⑦文の復唱(1)
⑧口頭指示(3)
⑨書字指示(1)
⑩自発書字(1)
⑪図形模写(1)
▶︎計30点 23/24がカットオフ

MMSEはHDS-Rと比較して言語機能や視空間認知機能などを要する項目が多く、つまり記憶に偏っていない検査と言えます。そのため、血管性認知症をより検出しやすいのが特徴です。一方、軽症例や病前能力の高い認知症の場合は感度が低くなってしまい、教育年数などの影響も受けることは弱点と言えるでしょう。

おまけ

考え不精

認知機能検査の際に、ぼーっとしている様子が目立つようであれば、意識や注意障害を疑う根拠になります。なお、意識障害がないにも関わらず、設問に対して全く考える素振りがなく「わからない」「知らない」などと安易に返答されるような場合には、考えること自体に対する無関心さがあると言えます。この「考え不精」は前頭側頭型認知症で高率にみられ、また、進行性核上性麻痺、皮質基底核変性症の一部でもみられることがあります。アルツハイマー型認知症では、初期の段階では考え不精は少なく、(もちろん進行してくるとみられるようになりますが)、「最近はカレンダーを見ないから日付は忘れちゃった」などとなんとか取り繕おうとする傾向にあるのです。

head turning sign

質問をされた際に、家族の方を振り向いて自分の代わりに答えてもらおうとする仕草をhead turning signと呼びます。これは家族への依存性であり、アルツハイマー型認知症の90%程度で観察されるとも言われています。逆に前頭側頭型認知症ではgoing-my-wayであり、他者の意見には耳を傾けず、head turning signはみられません。このhead turning signはアルツハイマー型認知症に比較的特異的にみられる重要なサインであることを覚えておきましょう!

精神科医Pちゃんまんってどんな人?

美人すぎる精神科医Pちゃんまん。ハイパーな精神科救急病院での後期研修を経て、精神科指定医および精神科専門医を取得。日々の臨床業務の中で学んだこと、気になる論文、おすすめ参考書籍などを紹介していきます。

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