アルツハイマー型認知症(AD)の原因遺伝子と環境要因
アルツハイマー型認知症にはいくつか分類があります。例えば65歳以前に発症する早発性アルツハイマー型認知症、65歳以降に発症する遅発性アルツハイマー型認知症です。その他にも、家族歴のない孤発性アルツハイマー型認知症、家族歴のある家族性アルツハイマー型認知症などの分類も存在します。特に孤発性と家族性では当然それらの原因も異なる可能性があり、分けて考える必要があるでしょう。それでは、アルツハイマー型認知症の原因についてまとめていきましょう。
原因を大きく3つに分類!
家族性AD(FAD)の原因遺伝子
アミロイド前駆体蛋白質(APP)遺伝子
APPはアミロイドβの前駆体になります。アルツハイマー型認知症の病理所見のひとつに老人斑の蓄積があげられますが、この老人斑はアミロイドβが神経細胞外に凝集して形成される構造物のことです。APPが増えると当然アミロイドβも増えます。そして、アミロイドβが増えるということは老人斑が増えるということになります。家族性アルツハイマー型認知症のうち、APPを認めるのは10-15%と言われており、頻度としてはそれほど多くありません。
プレセニリン1(PSEN1)遺伝子
家族性アルツハイマー型認知症の原因遺伝子としてAPPの割合が少ない一方、このPSEN1遺伝子の割合は高いと言われています。その割合は20-70%にものぼるようです。PSEN1は14番遺伝子に存在します。なお、このPSEN1変異による家族性アルツハイマー型認知症の発症年齢は平均40歳代とAPP変異と比較して若いのですが、多くは孤発性アルツハイマー型認知症と同様の経過をたどることになります。
プレセニリン2(PSEN2)遺伝子
PSEN2遺伝子は2番染色体に存在します。PSEN2変異が原因となるアルツハイマー型認知症は少なく、国内での報告例はないです。こちらはPSEN1変異と比較して発症が遅く、平均50歳代後半と言われています。平均年齢の幅も大きいのが特徴です。
孤発性AD(SAD)の原因遺伝子
家族集積性を持つFADに対して、孤発性アルツハイマー型認知症の原因についてはどうでしょうか?以下にまとめていくこととします。
アポリポ蛋白質E(ApoE)遺伝子
アポリポ蛋白質Eは肝臓で産生され、血液中のカイロミクロンやVLDL、HDLに含まれます。脳内ではアストロサイトやミクログリアが産生し、神経細胞へ脂質を輸送する働きを持ちます。アルツハイマー型認知症患者においては、老人斑と神経原線維変化の両者にアポリポ蛋白質Eが共局在していることが明らかになりました。ApoE遺伝子は19番染色体に存在しています。
ミクログリア機能調節因子(TREM2)
TREM2は那須ハコラ病の原因遺伝子になります。TREM2蛋白は脳内のミクログリア機能調節因子として、貪食能増強と炎症性サイトカイン産生抑制に働くと言われています。このTREM2遺伝子の変異がアルツハイマー型認知症の発症リスクに関与しているとの報告もありますが、国内ではまだ有意差は確認されていません。
孤発性ADにおける環境要因
最大の要因は言わずもがな「加齢」です。ただ、孤発性アルツハイマー型認知症は多因子疾患であり、他にも様々な要因が指摘されています。以下にそれらの要因をまとめていきます。
AD発症リスクを増大させる要因
・高血圧
・肥満*
・現在の喫煙
・うつ病
・睡眠障害
・頭部外傷
*ただし、老年期においては肥満がADのリスクを下げたとの報告あり。老年期においてはむしろ痩せがAD発症リスクとなるかもしれません。
AD発症リスクを軽減する要因
・教育(高学歴)*
・認知トレーニング
・適度なアルコール
・地中海式食事法
オリーブオイル、ナッツ、穀物
野菜、果物、魚、鶏肉
少量のワイン
・NSAIDs長期使用者**
*低学歴がAD発症に関連するとの報告あり
**Neurology 48,626-632,1997
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